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脊椎疾患

背骨は体の軸となる支えの部分であるほか、頭蓋骨と同じように神経組織を守るためにとても重要です。

(腰痛症などもUp予定しています)

   
正常の腰椎


腰部脊柱管狭窄症

いわゆる昔の言葉で「坐骨神経痛」を含むものです。

多くは加齢に伴う椎間板の出っ張りや、神経を覆う靭帯のたるみにより脊柱管(神経が通っている管)が狭くなります。 これによる典型的な症状は歩行や立っていることの継続で下肢が痛くなってくる、背筋を伸ばした状態で長く歩けない「間欠性跛行」という症状です。(ただしみなさんが同一の症状であることはなく、安静時の痛みがあったりすることもあります)

椎間板や靭帯がでっぱってくることにより60台以上のかたなら多かれ少なかれ若干の狭窄はあることがほとんどです。
ちなみに背骨自体が膝と同じように加齢により骨にとげが出てきたりX線上の変化をきたしたものが「変形性脊椎症」とよばれます。

患者さんからすると「A病院ではヘルニアといわれた」のに「B病院では脊柱管狭窄症といわれた」など相談されるかたもいらっしゃいますが、表現の違い(形に着目するか、症状に着目するか)です。

ちなみに右のMRIのかたは典型的な症状ですが、「ヘルニアも伴っている変形性脊椎症によって腰部脊柱管狭窄症となった」患者さんです。

変形性膝関節症(年齢により膝の軟骨が悪くなった)かたが皆さん手術になるわけではありませんよね?
もちろん腰部脊柱管狭窄症でも手術を行わなくてはいけない人の割合は多くないと思います。しかし高齢患者さんが増えているため、国内でも手術を行われる患者さんは増えています。

まず下肢の神経痛や歩行・起立時のいたみが出現するようであれば、整形外科専門医への受診をするべきです。

高齢の方の場合、閉塞性動脈硬化症など(PAD)との鑑別が必要となる場合があったり、胸椎などべつの場所の病気や神経内科の疾患であることも多いので、自己判断は危険です。

程度が強くなければ内服加療などで症状が軽くなることもありますが、日常生活が困難なほど症状が強かったり、筋力低下・排便排尿困難を伴うものでは神経ブロックや手術治療が必要となる可能性があります。

腰椎椎間板ヘルニア

青壮年で問題になるのが腰椎椎間板ヘルニアです。
ただ間違った常識としていろいろなことが言われている病気でもあります。
そもそもヘルニアとはHerniation「とびだす」という言葉が起源であり、あしの付け根から腸がふくらんで飛び出し気味になっているのは「そけいヘルニア」、内蔵でも食道が胃のほうにとびだし気味になっている「食道裂孔ヘルニア」という病気もあります。

大きな間違いのひとつに「ヘルニアはあったら異常」という思い込みもあります。若い方の場合一箇所だけの椎間板により下肢痛を起こしていることが多いですが、60歳以上の方の場合全く無症状のかたでも7割くらいに軽いヘルニアが存在することも知られています。

なぜか一般の方には「強い腰痛症=ヘルニア」の図式がありますが、典型的な一箇所のみのヘルニアでの場合「強い下肢痛>>軽い腰痛」のことも多くあります。

第4・5腰椎の間と第5腰椎・仙椎の間に発生することが殆どです。この場合の一般的な症状は殿部~ふくらはぎ、足首より先の外側などのいたみです。(もちろんヘルニアの場所により痛みの場所は異なるのでくれぐれも自己判断はなさらぬよう)

一般的な脊椎外科医なら誰でも知っていることですが、若年者のヘルニアは8割程度が手術を行わなくても症状(特に下肢痛)は改善します。症状を抑えるための投薬・リハビリ・仙骨硬膜外ブロックや神経根ブロックなどを行い、日常生活に差し支えるほどの症状が残ったものだけが手術の純粋な適応です。
ヘルニアは切らずに・・なんてうたい文句もありますが、あたりまえでもあります。
もちろんあまりにも症状が強すぎたり、早期の社会復帰を望む場合には早い時期に手術に踏み切ることもあります。 また頚椎と同じく筋力低下や排尿排便障害が出てきている場合も手術適応です。

また保存的治療で8~9割が改善するとはいうものの、患者さんにとっては「自分が1割にはいるのか9割には入るのか」がわからないため、十分な説明を受けずに多くの医療施設を転々としている患者さんが多いのも事実です。これは多くの大病院が説明に時間をかけることができない今の状勢もあるでしょう。(かつて勤務医時代の私もそうでした)

多くの代替医療が存在し、なかには弱者につけ込むようなものもあるため、患者さんもヘルニアの自然経過を勉強した上で治療をよく主治医に相談した上で決定するべきだと考えます。

頚椎症性脊髄症(頚髄症)

「頚椎症」とはひらたくいえば頚椎・首の骨が悪くなってきたこと、「脊髄症」とは神経の太い幹が起こす症状(手足の運動障害や悪化すれば排尿・排便困難)のことをいいます。

症と頚症、一字違うだけで全然違いますね。

よく似た言葉に頚椎症性神経根症という脊髄から発生した細い枝だけの病気がありますが、こちらは特に若い人の場合90%以上が自然に軽快したりリハビリ投薬等で症状が軽快します。(職業上VDT作業やカーテン取り付け・自動車修理工のかたなど特定肢位を続けるかただと繰り返すこともあるようです)

脊髄症の場合、症状がゆっくり進む場合にはあまり自覚症状として痺れしかないので患者さん本人が気がつかなかったり、加齢に伴い徐々に悪化することが多く、また日本人に多い後縦靱帯骨化症が原因になっている場合ではきわめてゆっくり進行するため気づかれたときにはかなり重症ということが多々あります。

階段を下りる時に膝ががくがくして降りにくい・・でも力が入らないわけじゃないし・・とか
新聞のページめくりがどうもやり難いんだが・・
というかたは要注意です。

このような患者さんは転倒などで一気に進行することがあり、残念ながら重症な麻痺で発見されたかたは手術など根本治療を行っても麻痺が治ることはありません。

このため進行例では悪化防止のための手術が適応になります。

いずれにせよいったん生じた麻痺は改善することはないので自己判断は非常に危険です。また脳梗塞との鑑別も重要になります。


骨棘(椎間板)が脊髄を圧迫している状態



後縦靱帯骨化症
水色部分(後縦靱帯)が固い骨のような組織へと成長し、脊髄を圧迫している

脊椎疾患における手術治療で考えなければいけないこと

勤務医時代にはほとんど手術の毎日でしたから、毎日患者さんと家族の方に「首の手術して手足が麻痺しないでしょうか」とか、「腰の手術を行って歩いて帰ることができるでしょうか」という質問を毎日受けました。
また「成功率は何パーセントでしょう」とも聞かれます。(明らかにうまくいかない手術は医者は勧めません)

医学や技術が進歩したことにより、脊椎手術の安全性は二十年前と比べれば格段に進歩しています。
しかし医療はもとより完全なものではありません。相手にしているのが人間という、完全なものではないからです。 盲腸の手術で死ぬと思っている方はあまりいないでしょうが、盲腸が敗れておなかの中がばい菌だらけになっている人に手術を行うことはとても危険です。しかしほうっておけば死を待つのみですから、「危険な盲腸の手術」をすることになるわけです。

整形外科の病気はここまで極端なものはあまりありませんが、脊髄の場合進行すれば麻痺や排尿・排便が困難になって患者さんの人生を大きく変えてしまうことになります。

ひとつには脊椎手術の場合は相手にしているのが脊髄や神経根というデリケートな組織であるということです。神経組織自体は回復力がないため、現在の科学では残念ながら完全にだめになってしまった神経組織は回復しませんし(このような細胞は体の中では心臓と神経の細胞だけです)、知覚神経(触った感じや温度)に関しては特に回復が良くないことも知られています。脳梗塞や心筋梗塞が完全に回復しないのはこのためです。
ほとんどの脊椎手術は進行する運動麻痺や耐え難い痛みに対し行われるものですが、一定以上の損傷を受けた神経は回復しないことから手術前からの痛みがなくなっても痺れが残ったり、頚椎の場合運動麻痺の進行を止められてもしびれ感が残っていることが多いのです。
もちろん全ての患者さんにこのお話をしてきましたが、手術直後には強い痛みが取れてよかった・・・と思っても、半年もたてば「痺れが残っていますが治らないでしょうか」と思うのが人間です。この場合患者さんの術後半年の印象は「手術したのにしびれた」となるわけです。

これらのことはすべての手術を受ける患者さんが手術前に理解しておくべきですし、脊椎外科医は皆患者さんの生活の質を出来るだけ維持したいと考えています。

もう一つは、現在標準的に行われている頚椎の拡大術(これはもともと日本の医師が考え出したものです)や椎間板摘出術は歴史が古く、昔から行われてきたやりかたが改良されてきたものです。 外科手術の世界では危険で成績が良くない手術は時間とともに行われなくなるため、昔からある手術はそれだけ安全性が高いといえます。

残念ながら現在ではあまりにもいろいろな情報が手に入るがゆえに、患者さんからするとわらにもすがる思いでよくない治療(往々にして話がうますぎます)に飛びついてしまうこともあるのも事実です。

しかしどの業界でもそうでしょうが、「早くて安くて完璧」ということがあるでしょうか?なかなかそううまくはいかないものです。多くの脊椎手術を勧められている患者さんは、ほかに有効な切らない治療がなくなったため最終手段として手術を勧められているのでしょう。
何のために手術を勧められることになった
のか、何がメリットとデメリットなのか、しっかり理解しましょう。

手術に限らず、現在の担当医としっかりお話をまずするべきです
お話をしてもどうも理解が出来ない・納得できないというかたは、担当医にお話した上で、当院あるいは一宮市民病院木曜外来にお越しください。できるだけ患者さんと現在の担当医の関係がうまくいくようお手伝いいたします。 

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