小児

「こどもは大人のミニチュアではなく、別の生き物である」
多くの小児科の教科書の巻頭に書かれている言葉です。大人とは当然骨の状態も異なるため、けがのしかたも異なります。また症状を正確に伝えることが出来ないため、より慎重に診察・観察が必要です。治療上でも大人のようには理解してくれないため、安全マージンを大きくとる必要があります。

肘内障

要は肘関節の亜脱臼(完全に外れる前の状態)です。2~4歳ぐらいのこどもがむずがっているところを母親が手を引っぱったり、手をつないでいて転んだためにひっぱられたりして起こります。下に書く肘周辺骨折とは手をつくか引っ張られるかで大きな違いがあります。こどもは急に泣きだして、腕をと垂れ下げたまま動かさなくなるので、「肩がはずれた」といってあわてて来院される事が多くあります。(実際には小児で肩関節が脱臼することは極めてまれです)小児の肘で輪状靭帯という靭帯がゆるいのが原因で、年齢がくると自然に脱臼しにくくなります。非常に多い怪我で整形外科専門医なら皆もどすことが可能なので、早めに近くの整形外科に受診するのが得策です。整復後にはうそのように動きが良くなります。それよりも後述する小児の肘周辺骨折と見分けることが重要です。


小児の肘周辺骨折
上腕骨顆上骨折・上腕骨外果骨折
工事中

腰椎分離症

腰の骨の後ろにある部分(椎弓)が分離してしまった状態です。
中学生・高校生でスポーツをよく行い、負荷が大きい状態で疲労骨折の一種として起きます。子供さんの腰痛は大人と違って慢性化することは普通あまりなく、(極端にやせた女子高生などでは時々ありますが)スポーツや長時間同じ姿勢で強くなるなどの場合には分離症を疑う必要があります。分離症には先天性のものがあるとも言われていますが、若年で明らかな繰り返す運動負荷の後に痛くなるなら、整形外科受診をおすすめします。斜位のレントゲンで簡単に判別できるものもありますが、初期のものはレントゲンだけでは判断できずにMRIなどが必要になる場合もあります。出来上がってしまった分離症は通常の骨折のようにくっつくことはありません。成人で発見される分離症の方をみているとあまり症状がない方や、レクリエーション程度のスポーツを行っている方もみえます。しかし若年で発見された早期の分離症は固定(硬性コルセット)を数ヶ月で治癒することもありますから、発見されたら適切に治療することが望まれます。

オスグット・シュラッター病

成長期における膝下の前にある脛骨粗面という部分の成長軟骨に負担がかかり、はがれかけることにより盛り上がってみえる状態です。ジャンプやキック動作・ランニングなどを長時間行っている小5~中3くらいの男の子に多く発生します。正座したり、強く膝を伸ばす力を加えるときに膝下正面の部分が痛くなります。ただこの疾患は成長する期間にある骨端線(骨が伸びて成長する部分)に負担がかかっておきるため、成長が止まれば自然に症状はでなくなります。激しい運動を避ければスポーツも出来ますし、大人になって症状が残ることは極めてまれなので多くのものはスポーツを控える程度でもOKです。どうしても症状が強い場合には圧迫して症状を出にくくする装具もあるのですが、スポーツを控えめにするほうがよっぽど症状が改善することが多いです。それよりも痛みの部位がはっきりしない場合には、「膝が痛い」という訴えでも股関節疾患が多かったり、膝周辺はきわめてまれですが小児骨腫瘍の好発部位でもありますので整形外科専門医による診察が望まれます。

脊椎側弯症

側弯症は、脊柱の側方弯曲と、多くはねじれをともなう変形です。美容的な意味合いだけではなく、高度に進行した場合には肋骨の変形が強くなり肺や心臓を圧迫して、心肺機能障害をおこします。また若いころには症状がなくともある一定以上となると成人期以降に変形は進行し、変形・いたみのみならず神経症状を引き起こすこともあります。原因には先天性、麻痺性、筋性などがありますが、特に原因がないものを特発性脊柱側弯症と呼び、側弯症のうちの7~8割です。思春期に発生することがもっとも多く、80パーセントが女性です。外見上の変形が一般の方にわかるようであればかなり側弯は進んでいると考えられます。両膝を伸ばした状態で床に手をつくように前屈して、両肩の高さの左右差や腰の高さの左右差などがみられれば側弯症を疑うべきです。ただし側弯の部位によってはこれらの兆候がみられない場合もありますので、自己判断は危険です。側弯の角度やタイプ・場所により装具(コルセットの大掛かりなもの)や手術が適応となりますが、一部の代替医療として側弯が治るという整体等は何の根拠もありません。特発性側弯症はほとんどが多感な少女時代に起きるため、「なぜ自分だけが」という思いから治療を続けられずに脱落してしまう子供さんもみえます。このようなかたが成人になって矯正手術などが必要になった場合には非常に大掛かりで大変な手術となってしまいます。実際、「ここまで治療が遅れなければもっと小さくて負担の少ない手術で治すことが出来たのに」というかたも勤務医時代にはよく見かけました。側弯症の患者さんが多数の病院であれば、患者さん本人も「自分だけではない」と思えますし治療からドロップアウトする危険性は低くなりますから、側弯症を中心とした脊柱変形疾患の治療実績が多い専門病院への受診を勧めます。